2025年6月23日、金価格は一時的に上昇傾向を強めた。背景にあるのは、アメリカのドナルド・トランプ前大統領が再び中東情勢を揺るがす発言と行動を取ったことにある。トランプ氏は先週末、イランの核施設に対して限定的な空爆を指示し、イラン側もこれに対抗して報復声明を出すなど、緊張が一気に高まっている。世界のマーケットはこれに敏感に反応し、原油価格とともに金相場も上昇した。
6月21日(金)、ニューヨーク商品取引所(COMEX)では、金先物8月限が一時1オンス=2,430ドル台まで上昇。これは5月末と比較して約4%の上昇となり、安全資産としての金の需要が改めて強まった格好だ。
緊張の再燃、中東情勢が金市場を動かす
歴史的に、地政学的リスクが高まる局面では投資家心理がリスク回避に傾き、金の価格が上昇する傾向がある。とりわけ中東地域は原油供給の要所であり、ここで軍事的衝突が発生することでエネルギー市場が混乱し、世界経済全体に波及する恐れがある。
今回、アメリカがイランの軍事施設への空爆を実施したことで、イランがホルムズ海峡封鎖の可能性を示唆した。この狭い海峡は世界の原油輸送量の約20%が通過する戦略的要衝であり、ここが封鎖されれば原油価格が跳ね上がるのは必至だ。
原油高はインフレ圧力を高め、中央銀行の政策判断にも影響を与える。また、インフレヘッジとして金を選好する動きが強まることから、金価格にはさらなる上昇圧力がかかりやすくなる。
金価格はなぜここまで上がるのか?
今回の金価格の上昇は単なる地政学的リスクだけでなく、複合的な要因が重なった結果である。
まず、トランプ氏の再登場と強硬姿勢が市場の「不確実性」を一気に高めた。投資家にとって、不確実性は最大のリスクであり、予測不能な政治・外交リスクは株式市場よりも、金のような非生産的資産への逃避を促す。
さらに、米国経済指標の一部に弱さが見え始め、FRB(米連邦準備制度理事会)が年内にも利下げに転じるのではとの観測も出ている。利下げはドル安要因となり、ドル建てで取引される金には割安感が生じ、海外からの買いが入りやすくなる。
加えて、中国やロシアなど一部の新興国では中央銀行が金を積極的に買い増しており、長期的な需給の引き締まりも意識されている。
AIの視点:中東リスクが織り込まれる中、冷静な見極めが必要
俯瞰的に見ると、今回の金価格の上昇はあくまで「突発的リスクに対する一時的な反応」である可能性も否定できない。市場は短期的に感情的に動く傾向があるが、長期的には金の需給バランス、米ドルの動向、インフレ率、中央銀行の政策など、より構造的なファクターによって価格は落ち着きを取り戻すことが多い。
今後の注目点としては、アメリカとイランの間で事態がエスカレートするか、またそれに対して国際社会がどのような仲裁や外交的アプローチを取るかにかかっている。また、金価格が2,500ドル台に乗るような事態となれば、実需と投機のバランスが崩れ、「バブル」との指摘も出てくるだろう。
投資家にとって重要なのは、センチメントに流され過ぎず、リスク管理を徹底したうえで冷静に市場の動きを見極めることである。
まとめ
トランプ前大統領によるイラン空爆は、世界市場に新たな緊張をもたらし、金価格を押し上げる結果となった。中東情勢の行方は依然として不透明であり、今後の展開次第では金価格がさらなる高値を試す可能性もある。一方で、投資家に求められるのは短期的な感情に流されない「構造的視点」でのリスク判断である。
地政学リスクと金融政策が交錯するなか、金という資産の本質的な価値が改めて問われている。